シレーノ・ケローニのオフィスに訪問
9月初旬にイタリア・フィレンツェのサンタ・クローチェ広場にある聖堂から少し入ったところにあるSileno Cheloni(シレーノ・ケローニ)のオフィスに伺いました。そこはオフィスというよりは中世のルネサンス期の建物がそのままあるといった厳かな雰囲気が漂って少し足を踏み入れるのにも躊躇する感じでした。実際、後で建物について聞いてみると14世紀のもので、中に設置されているエレベーター(半手動)はフィレンチェで2番目に古いものとのことです。
ルネサンス期にフレンチェを統治したのはあの有名なメディチ家。カテリーナ・ディ・メディチが愛した香りは現在のオーデ・コロンの起源とも言われています。
さて、その建物の5階まで上がると、シレーノのオフィスに到着。中も外同様、石造りの厳かな雰囲気。壁や窓、また家具や調度品もすべてクラシックな雰囲気に包まれていました。そこに登場したシレーノと彼のマネジャーのマルセラ。シレーノが現れた際もそのオーラに飲み込まれそうになってしまいましたが、事前情報で意外と明るく優しい感じの方と聞いていたので、それほど緊張せずにお話することができました。
シレーノ・ケローニ(Sileno Cheloni)
パフューマー(調香師)、イタリアのマエストロとして表彰されている芸術家。また、世界の有名なブランド、高級デパートなどの香りのコンサルティングを担当、また世界各地でインセンス・セレモニー(お香を使ったワークショップ)を開催している。
アロマ(精油)を勉強したことがある人なら聞いたことがある「フランキンセンス」。
フランキンセンス(Frankincense)はオリバナム(Olibanum)、日本名では乳香と呼ばれるニュウコウジュ・カンラン科の木です。精油としてはこの木の樹脂を使用します。
このフランキンセンスは暑く乾燥した地域(エチオピア、ケニア、ソマリアなど)に育つ低木。「新約聖書」のイエス・キリスト誕生物語の中で、イエスに黄金、ミルラ(マー/没薬)とともに捧げられたことで有名です。当時は金と同等の価値がありました。
幹の表面を削ると、樹脂が流れ落ちます。はじめは乳白色で粘性のある液体ですが、空気に触れると固まり、それを削って採集します。樹脂そのものの香りは弱いですが、香として焚くと独特の香りがすると言われています。
さて、このフランキンセンス、日本ではなかなか手に入りにくいのではと思います。
実際の香りは、少し甘い、タイなどのお寺に入った時に匂う独特なオリエンタルな香りとでも言えるでしょうか。
素敵な部屋を1周して彼のデスクのところに座り、デーツ(date)とカフェ(エスプレッソ)を飲みながら歓談。目の前の素敵な銀製のトレイに置かれた果物をシレーノが食べてみるように勧めてくれました。それはデーツという果物。私自身、生のデーツを見るのも食すのも初めてで見るからに「ぶどうかな?」といった感じ。きれいな色のものを取ろうとすると、「こっちがいい。」と言って、かなり熟した茶色になったものを取ってくれ、それを口に入れると、まるでプラムかなんかのジャムを食べているよう。それと一緒にエスプレッソを口にする。甘さと苦さが相まってなんとも言えない味わいに。。本当にイタリア人になったような気分でした。
さて、本題に戻ると、彼の話は「Incense Ceremony 」(お香のワークショップ)について。
彼は最近、世界各地でお香のワークショップを開いています。ホテルやコンサート会場、またイベント会場などでお香のワークショップとパフュームの歴史について、一般の人に向けて語っています。「鼻から入った匂いはそのまま脳に行き、そして人間の感情に働きかけるのです。」とシレーノは言います。また、多くの人が思っている、“香水自体はすべて同じである” しかし、それは正確ではないよう。実際は「たとえ同じ香水を使ったとしても付ける場所(手・首・耳など)、付ける人間の皮膚によって香りは独自化する」とシレーノは言います。つまり、同じ香水でも付ける人によって何百億通りの香りとなると。さらに、「香りは記憶となる」とも。つまり、鼻から入った香りは脳への伝わり、その時の感情とともに脳の奥底で記憶となって人間の心に留まると彼は話していました。
今、彼はGUCCI、ランボルギーニなどの有名ブランド、高級ホテル、ハロッズ、SKP BEIJINGなどの高級デパートと組んでオルファクトリー・ブランディング(嗅覚ブランディング)を遂行しています。
日本でも近い将来、是非このワークショップを開催したいと思います。